家族信託の手続きとは?信託契約書・信託登記の流れと費用を司法書士が解説
「認知症になった後の実家や預金の管理が心配」「親の資産を家族が困らないように引き継ぎたい」——そうしたお悩みの解決策として近年注目されているのが家族信託(民事信託)です。家族信託の手続きの中心となるのが、信託契約書の作成と、不動産を対象にする場合の信託登記です。
この記事では、家族信託の手続きのうち信託契約書の作成と信託登記に絞って、流れ・必要書類・費用・注意点を司法書士がわかりやすく解説します。これから家族信託を検討される方は、全体像をつかむための参考にしてください。

目次
- 家族信託の手続きとは?信託契約書と信託登記の関係
- 信託契約書の作成の流れ【5ステップ】
- 信託契約書に盛り込むべき主な内容
- なぜ信託契約書は公正証書にすべきか
- 信託登記とは?必要になる2種類の登記
- 信託登記の手続きの流れ
- 家族信託の手続きに必要な書類(信託契約書・信託登記)
- 家族信託の手続きにかかる費用
- 家族信託の手続きで注意すべきこと
- まとめ
家族信託の手続きとは?信託契約書と信託登記の関係
家族信託(民事信託)とは、自分の財産の管理・運用・処分を、信頼できる家族に託す仕組みです。財産を託す人を委託者、託されて管理する人を受託者、その財産から利益を受ける人を受益者と呼びます。多くの場合、親を委託者兼受益者、子を受託者とする形で設計されます。

家族信託の最大の特徴は、委託者が元気なうちに契約を結んでおくことで、将来認知症などで判断能力が低下しても、受託者が資産の管理や不動産の売却を続けられる点にあります。成年後見制度とは異なり、あらかじめ信託契約で定めた目的や権限の範囲で、将来の財産管理や不動産の売却などを家族に任せる仕組みを整えておくことができます。そのため、認知症による財産管理の停滞への備えや、将来の資産承継を考える方法の一つとして活用されています。
この家族信託を実現するために大切なのが、信託契約書の作成と信託する不動産がある場合は信託登記の申請という2つの手続きです。
①信託契約書の作成は「誰に・何を・どう託すか」を定める土台であり、②信託登記は「その不動産が信託財産であること」を第三者に示すための手続きです。
信託の根拠となる法律については、信託法(e-Gov法令検索)で確認できます。
信託契約書の作成の流れ【5ステップ】
信託契約書は、いきなり書面を作るのではなく、家族での話し合いと設計を経てから作成します。一般的な流れは次のとおりです。

STEP1 信託の設計(家族会議)
信託の目的、託す財産の範囲、受託者の権限、受益者、信託を終了させる条件などを家族で話し合って決めます。
受託者となる方をはじめ、関係するご家族にも信託の目的や管理方法を共有しておくことで、開始後の認識の違いを防ぎやすくなります。
STEP2 信託契約書案の作成
設計した内容を契約書の文言に落とし込みます。将来想定される不動産の売却・修繕・建て替え・賃貸なども踏まえ、受託者の権限を具体的に定めておくことが重要です。
STEP3 金融機関への事前確認
信託専用の口座(信託口口座)を開設する予定の金融機関に、契約書案の内容を事前に確認してもらいます。信託口口座の取扱いや開設条件は金融機関によって異なります。
金融機関によっては、司法書士などの専門職を通じた契約書案の事前確認や、公正証書による信託契約を口座開設の条件としています。
STEP4 公正証書化
公証役場で信託契約書を公正証書として作成します。公正証書は法律上の必須要件ではありませんが、信託口口座の開設や将来の紛争予防などを考え、当事務所では公正証書による作成をおすすめしています。
STEP5 信託口口座の開設・信託登記
公正証書をもとに信託口口座を開設し、不動産があれば信託登記を行って、いよいよ財産管理をスタートします。
お金の管理はどうする?
金銭を信託する場合は、受託者自身のお金と混ざらないように分けて管理します。
実務では、金融機関の取扱いに応じて「信託口口座」などを開設し、信託した金銭の入出金や管理を行います。
信託口口座の取扱いや開設条件は金融機関によって異なるため、契約書を公正証書にする前に、利用予定の金融機関へ確認しておくことが重要です。
信託契約書に盛り込むべき主な内容
信託契約書に決まった書式はありませんが、通常、次のような事項を定めます。
- 信託の目的……何のために財産を託すのか(例:委託者の安定した生活の確保と円滑な資産承継)
- 信託財産の特定……不動産は登記簿どおりの正確な所在・地番・家屋番号で、金銭は金額を明記
- 委託者・受託者・受益者……それぞれを明確に定めます。家族信託では、委託者と受益者を同一人とする「自益信託」が多く用いられます。委託者と受益者が異なる場合は、贈与税等が発生する可能性があります。
- 受託者の権限……不動産の管理・修繕・売却・建て替えなど、認められる行為を具体的に列挙
- 信託の終了事由と残余財産の帰属先……信託が終わる条件と、終了後に財産を受け取る人
- 受託者が亡くなった場合等の後継受託者……管理を引き継ぐ人
特に受託者の権限は、記載が不十分だと「その行為をする権限がない」と判断され、数年後の不動産売却時などに支障が出る恐れがあります。契約書の設計は、将来を見据えて慎重に行う必要があります。
なぜ信託契約書は公正証書にすべきか
信託契約書は当事者間で作成した私文書でも法律上は有効です。しかし実務では、公証役場で公正証書として作成することが強く推奨されます。理由は主に次の3つです。
- 金融機関の口座開設要件……信託口口座の開設条件は金融機関によって異なりますが、多くの金融機関では、公正証書による信託契約を口座開設の条件としています。
- 本人の意思能力や契約意思を公証人が確認する……公証人は、委託者本人の意思能力や契約意思を確認し、契約内容に違法・無効となる点がないかを審査したうえで公正証書を作成します。公正証書には強い証拠力があるため、将来、契約の有効性をめぐる争いが生じた場合にも重要な資料となります。
- 原本が公証役場に保管される……紛失・改ざんのリスクがなく、安心して長期にわたり利用できます。
公正証書の作成手数料は信託財産の価額に応じて決まります。公証制度や公正証書の詳細は、日本公証人連合会の公式サイトで確認できます。
信託登記とは?必要になる2種類の登記
信託財産に不動産が含まれる場合は、信託登記が必要です。信託登記とは、その不動産が信託によって受託者が管理する財産であることを、登記簿に記録して公示する手続きです。

不動産を信託する際は、次の2つの登記を同時に一件の申請で行います。
①所有権移転登記
不動産の名義を委託者(親)から受託者(子)へ変更する登記です。あくまで管理を任せるための移転であり、贈与や売買のように受託者のものになるわけではありません。
②信託の登記
その不動産が信託財産であることを公示する登記です。登記簿には「信託目録」が作成され、信託の目的や受託者の権限などが記録されます。
信託目録は、将来その不動産を売却したり担保を設定したりする際に、受託者の権限や信託内容を確認するうえで重要な部分です。
信託登記の手続きの流れ
信託登記は、信託契約(公正証書の作成)が済んでから行います。一般的な流れは次のとおりです。
- 必要書類の準備……信託契約書(公正証書)や固定資産評価証明書などをそろえます。
- 登記申請書の作成……所有権移転登記と信託の登記をまとめた申請書を作成します。
- 法務局へ申請……不動産の所在地を管轄する法務局へ、窓口・郵送・オンラインのいずれかで申請します。
- 登記完了・確認……登記の完了時期は、管轄法務局の処理状況によって異なります。完了後は、登記事項証明書を取得し登記された内容を確認します。
登記の手続き(不動産登記の申請書様式:法務局)や登記事項証明書の取得(法務局)については、法務局の公式サイトもあわせてご参照ください。
家族信託の手続きに必要な書類(信託契約書・信託登記)
手続きで一般的に必要となる書類は次のとおりです。ケースによって追加書類が必要になることもあります。
| 場面 | 主な必要書類 |
|---|---|
| 信託契約書の作成・公正証書化 | 本人確認書類、住民票の写しまたは戸籍の附票、不動産の登記事項証明書、固定資産税評価額を確認できる資料 など |
| 信託登記 | 登記識別情報(権利証)、登記原因証明情報(信託契約書など)、委託者の印鑑証明書、受託者の住民票の写しまたは戸籍附票、固定資産税評価額を確認できる資料、信託目録に記録する内容を確認できる資料 など |
※公正証書の作成に必要な本人確認資料は、公証役場や作成方法によって異なります。当事務所では、契約書に記載する住所を正確に確認するため、住民票の写しや戸籍の附票なども確認します。
家族信託の手続きにかかる費用
家族信託にかかる費用は、大きく「実費(税金・手数料)」と「専門家に依頼した場合の報酬」に分かれます。まず、必ずかかる実費の目安は次のとおりです。

実費(税金・手数料)
- 公正証書の作成手数料……信託財産の価額などに応じて、公証人手数料令に基づき算定されます。信託の公正証書では、信託財産の価額が1億円以下の場合、通常の手数料に13,000円が加算されます。
- 登録免許税(信託の登記)……土地は固定資産税評価額の0.3%(令和11年〔2030年〕3月31日までの軽減税率)、建物は0.4%です。委託者から受託者へ信託のために所有権を移す登記については、登録免許税は課税されません。
これらは国や公証役場に支払う費用で、どの事務所に依頼しても共通してかかります。公証役場の手数料は日本公証人連合会「手数料」、登録免許税の税率は国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」で確認できます。
専門家に依頼した場合の報酬
信託の設計、契約書の作成、信託登記などを専門家に依頼する場合は、実費とは別に報酬が必要です。
当事務所では、信託財産の価額に応じて次の報酬体系を設けています。
| 信託財産の価額 | 報酬額(税別) |
|---|---|
| 300万円以下の部分 | 25万円 |
| 300万円を超え3,000万円以下の部分 | 2% |
| 3,000万円を超え3億円以下の部分 | 1% |
| 3億円を超える部分 | 0.5% |
この報酬には、通常、信託設計、信託契約書原案の作成、公証役場との打合せ、信託登記、金融機関と連携した信託口口座開設支援などを含みます。公証人手数料、登録免許税、各種証明書の取得費用などの実費は別途必要です。
詳しい料金や業務内容は、家族信託の費用ページをご確認ください。
家族信託の手続きで注意すべきこと
- 契約書の不備は後から重大な問題になる……受託者の権限が不足していると、将来の売却や修繕ができないおそれがあります。専門家による設計が安心です。
- 金融機関の審査は事前に……公正証書を作った後に「口座が開設できない」という事態を避けるため、金融機関への事前確認は必須です。
- 税務の設計を誤らない……委託者と受益者が異なる「他益信託」では贈与税が課されることがあります。設計段階での確認が重要です。
- 成年後見制度との違いを理解する………家族信託は財産管理を中心とする仕組みであり、受託者が介護施設への入所契約など、ご本人の身上に関する法律行為を当然に代理できる制度ではありません。必要に応じて、任意後見など他の制度との併用を考える必要があります。
まとめ
家族信託では、信託契約書に定めた内容が、その後の財産管理や不動産の売却、信託終了後の財産承継まで大きく影響します。契約書では「誰に・何を・どのような権限で託すか」を具体的に定め、不動産を信託する場合は、所有権移転登記と信託の登記によって信託財産であることを公示します。
家族信託が向いているかどうかは、ご本人の財産内容やご家族の状況、将来どのように財産を管理・承継したいかによって変わります。認知症による財産管理の停滞に備えたいのか、相続後の財産承継まで決めておきたいのかによって、家族信託だけでなく、遺言や任意後見を組み合わせることもあります。
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